Google「Quick Share」がAirDropと連携:Android・iPhone間のファイル共有の垣根が消滅
ニュース要約: 米グーグルは、近接ファイル共有機能「Quick Share」をアップデートし、Appleの「AirDrop」とのプロトコルレベルでの相互運用を実現した。これにより、AndroidとiPhone/Mac間でサードパーティアプリなしに安全かつ直接的なファイル転送が可能となる。長年のモバイルエコシステムの「囲い込み」の壁が崩れ、Quick Shareが汎用規格化を目指す。
【独自】ファイル共有の壁崩れる:Google「Quick Share」がApple「AirDrop」と連携、Android・iPhone間の垣根消滅へ
2025年11月21日 日本経済新聞
【サンフランシスコ=田中健太】米グーグルは、同社の近接ファイル共有機能「Quick Share(クイックシェア)」を大幅にアップデートし、これまでApple(アップル)製品専用であった「AirDrop(エアドロップ)」とのプロトコルレベルでの相互運用を実現した。これにより、Android端末とiPhoneやMacなどのiOS/macOS端末間で、サードパーティアプリやクラウドサービスを介さず、安全かつ直接的なファイル転送が可能となった。
長らく続いたスマートフォン二大巨頭間の「エコシステム囲い込み」の壁が崩れた形であり、グーグルはQuick Shareを事実上のクロスプラットフォーム標準規格として確立し、AirDropの独占的な地位を揺るがす戦略に打って出た。
技術的障壁を打破した「翻訳レイヤー」
これまで、Android端末のQuick ShareとApple端末のAirDropは、いずれもWi-FiとBluetoothを利用したピア・ツー・ピア接続を採用していたものの、デバイスの検出や認証、データ転送のプロトコルが根本的に異なっていたため、直接的な通信は不可能だった。
グーグルが今回開発したのは、異なるプロトコル間を橋渡しする「翻訳レイヤー」技術である。この技術により、Android端末(特に最新のPixel 10シリーズ以降)は、AirDropが「すべての人」設定になっているAppleデバイスをネイティブに検出し、セキュアなハンドシェイクを経て、大容量ファイルをシームレスに転送できるようになった。
市場関係者は、この技術的ブレークスルーは、アップルが自社のエコシステム外への開放に消極的であった中、グーグルが「回り込み」の形で実現した画期的な成果だと評価している。
汎用規格化を目指すQuick Share
AirDropは、その利便性の高さからアップル製品ユーザーの「エコシステムロックイン」の主要因の一つとされてきた。写真や動画の共有が瞬時に行えるAirDropの存在は、ユーザーが他社製品への乗り換えを躊躇させる要因となっていた。
しかし、今回のairdrop android間連携により、その排他性が大きく崩れることになる。グーグルはQuick ShareをAndroid、Windows、Chromebookに展開しており、ここにiOS/macOSが加わることで、Quick Shareは名実ともに業界で最も広範な互換性を持つファイル共有ツールとなる。
速度とセキュリティで優位性も
性能面においても、Quick Shareの優位性が指摘されている。複数の独立系テスト機関の報告によると、Quick Shareは、特に大容量ファイル(1GB程度)の転送において、AirDropよりも高速である傾向が見られる。例えば、1GBのファイルを転送する際、Quick Shareが約19秒から28秒で完了するのに対し、AirDropは30秒以上を要する場合が多いという。
また、Quick Shareは通信範囲の広さでもAirDropを上回る。Quick Shareの通信可能距離が約15メートルであるのに対し、AirDropは約9メートルに限られる。これにより、会議室や教室といった環境での利便性が向上する。
さらに、グーグルは、このクロスプラットフォーム連携が第三者による侵入テストで「他の業界実装よりも顕著に強固」であると評価されたことを強調しており、セキュリティとプライバシーが確保されたピア・ツー・ピア転送であることを保証している。
規制圧力とアップルの動向
グーグルのこの戦略的転換の背景には、欧州連合(EU)のデジタル市場法(DMA)など、世界的な規制当局による巨大テック企業への「相互運用性」要求の高まりがある。アップルはこれまで、RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)の採用についても消極的であったが、市場と規制の両面からの圧力が高まる中、Quick ShareによるAirDropの「事実上の開放」は、同社に新たな対応を迫るものとなる。
現時点(2025年11月)で、アップル側はAirDropをAndroidへ公式に開放する予定を発表していない。しかし、ユーザーがサードパーティアプリやクラウドを介さずに、appleとandroid間でファイルを転送できる利便性を一度享受すれば、アップルがこの流れを止めることは困難になるだろう。
市場アナリストは、「この連携は、単なる機能追加ではなく、モバイルエコシステム競争におけるパラダイムシフトを意味する。ユーザーはもはやOS間の壁を気にすることなくデバイスを選択できるようになり、アップルはAirDropの排他性に頼れない新たな競争環境に直面する」と指摘している。
今後の焦点は、Quick Shareの互換性が、よりセキュアな「連絡先のみ」の共有モードにまで拡張されるかどうか、そしてアップルがこの流れに対し、規制強化やプロトコル変更で対抗するのか、あるいは連携を容認し、よりオープンな戦略に舵を切るのかにある。いずれにせよ、無線ファイル共有の未来は、「囲い込み」から「相互運用性」へと大きく転換しつつある。