【鎮西バレー】畑野久雄監督 51年目の求道：80歳の名将が貫く「人間形成」と「不惑の頂点」

鎮西バレー、不惑の頂点へ　畑野久雄監督、51年目の求道と「満足しない」哲学

【熊本】 高校バレーボール界の超名門、鎮西高校男子バレーボール部が2025年、夏のインターハイ（全国高等学校総合体育大会）で4年ぶり5度目の優勝を飾り、さらに国体（国民体育大会）少年男子の部も制覇。九州大会と合わせ「九州三冠」を達成し、再び高校バレー界の頂点に君臨している。この偉業を支えるのが、就任51年目を迎えた名将、畑野久雄監督（80）だ。80歳の高齢ながら、現役監督としてコートサイドに立ち続けるその姿勢と、選手たちに植え付けてきた独自の指導哲学が、強豪鎮西高校 バレーの揺るぎない礎となっている。（共同通信社運動部・特別取材班）

80歳の闘将、衰えぬ情熱

畑野久雄監督は1974年に鎮西高校の指揮官に就任して以来、半世紀以上にわたり、一貫して技術と精神の両面から選手を育成し続けてきた。2025年夏のインターハイでは、決勝で市立尼崎（兵庫）をストレートで下し、4年ぶりの栄冠を獲得。この時、畑野監督は80歳という年齢でありながら、コートサイドで若き選手たちと同等の熱量を持って指示を送り続けた。

特に注目すべきは、インターハイ優勝後も畑野監督が現状に満足していない点だ。彼は「まだミスがある。集中はしているが、しっかりやってほしい」と語り、日々の練習で「これからも毎日コツコツやっていく」ことの重要性を強調する。この飽くなき向上心こそが、鎮西 畑野監督の指導の真髄であり、チームが常に成長し続ける原動力となっている。

現在のチームは、主将の一ノ瀬漣選手を中心に、平川陽翔選手や福田空選手らスパイカー陣が充実。1年生中心の若手が多く、伸びしろが大きいのが特徴だ。彼らはインターハイ優勝という実績を持ちながらも、監督の指導のもと、「納得しない」姿勢を貫き、来るべき春高バレー（全日本高等学校選手権大会）でのさらなる全国制覇を目指し、強化を続けている。

「技術」の前に「人間」を問う指導哲学

畑野久雄監督が長きにわたり名将として尊敬される理由は、単なる勝利至上主義ではない、独自の指導哲学にある。彼は「当たり前のことを当たり前に」をモットーとし、ミスのない安定したチーム運営を徹底する。

畑野監督の哲学の根幹は「人間形成」だ。選手たちには、バレーボールの技術だけでなく、学校生活や日常の態度を含めた人間としての成長を強く求める。彼は「ミスは練習不足の証」として厳しく指導する一方、選手に考えさせるために「言葉をチョイスして」伝えることを意識する。このアプローチにより、選手は自主性を育み、自ら判断する力を身につけてきた。

また、鎮西バレーを象徴するのが「3番」の背番号だ。これは長嶋茂雄氏への敬意から生まれたもので、「どんな時も強く、逃げずに立ち向かうエースの姿」を意味する。この伝統は、選手たちに強い精神力と責任感を植え付けている。

継承される「鎮西イズム」とOBの活躍

鎮西高校 バレーの強さは、OBの活躍にも色濃く表れている。畑野監督のもとで育った選手たちは、Vリーグや日本代表の主要なポジションを占めている。

2024年パリ五輪日本代表として活躍した宮浦健人選手、同じく日本代表の水町泰杜選手（ともにWD名古屋所属）らがその代表格だ。彼らは、畑野監督が徹底した「チームファースト」の精神と「基本の徹底」を体現しており、日本バレー界全体のレベルアップに貢献している。また、ビーチバレーで五輪に出場し、現在は参議院議員を務める朝日健太郎氏も、畑野監督の指導の元で「考えるバレー」を学んだOBの一人だ。

さらに、畑野監督の右腕として長年チームを支える宮迫竜司コーチら、若手指導者への指導哲学の継承も順調に進んでいる。80歳の名将の指導は、指導者自身にも「身を粉にして働くわけではないが、これからも学びながら指導したい」と思わせるほど、影響力が大きい。

春高バレーへの道と名将の進退

2025年11月現在、鎮西高校は来年1月の春高バレーに向けて最終調整に入っている。インターハイを制した勢いをそのままに、春高での頂点奪還を目指す。

畑野久雄監督は、年齢や健康状態を考慮した段階的な引退も視野に入っていると見られるものの、2025年時点では引退の公式発表はなく、現役続行の意思を強く示している。51年間にわたり高校バレー界を牽引し、多くの優秀な人材を輩出し続けてきた畑野監督の存在は、単なる一高校の監督という枠を超え、日本スポーツ界の宝と言えるだろう。

来る春高バレーでは、畑野監督率いる鎮西高校が、再び全国の注目を集めることは必至だ。名将の求道的な指導が生み出す「鎮西バレー」の新たな挑戦に、多くの視線が注がれている。