佐賀競馬、ネット投票と融合戦略で「過去最高益」へV字回復—地方競馬のフロンティア

佐賀競馬、岐路から「過去最高益」へV字回復—ネット投票と融合戦略が牽引する地方競馬のフロンティア

（2025年11月30日 佐賀発）

かつて経営危機に瀕していた佐賀競馬が、デジタル時代の波に乗り、驚異的なV字回復を遂げている。2024年度（令和6年度）の年間売得金額は783億3,123万円を記録し、5年連続で過去最高額を更新した。これは、1991年のピーク時（359億円）を大幅に上回る水準であり、地方競馬がインターネット投票の普及を背景にいかに進化し得るかを示す、先進的な成功事例として全国から注目を集めている。

デジタルシフトがもたらした「過去最高益」

佐賀競馬の復活劇の最大の要因は、インターネット投票システムの積極的な活用と、それに伴う戦略的な開催方法の転換にある。

1998年以降、赤字に転落し低迷していた佐賀競馬は、JRAのIPATやオッズパークといったネット投票システムの普及により、全国の競馬ファンへリーチする手段を獲得した。新型コロナウイルス禍における「巣ごもり需要」も追い風となり、ネット投票の売上は急増。現在では売上全体の4割以上を占めるまでに成長した。地理的な制約が解消されたことで、佐賀県外の顧客を取り込むことに成功したのだ。

経営戦略として、2022年度からはナイター開催の比率を大幅に増やしたことも奏功した。これは、仕事帰りのファンや夜間帯の利用客のニーズを的確に捉え、売上増加に大きく貢献している。さらに、2024年には九州で初となる「JBC佐賀」など大型イベントを誘致し、集客とブランドイメージの向上に努めてきた。地方競馬全体の売上が過去10年で3倍近くに拡大するトレンドの中で、佐賀競馬はその波を最大限に活用し、「過去最高益」を達成し続けている。

エンタメ融合戦略で若年層を取り込む

佐賀競馬は、従来の競馬ファンだけでなく、新たな顧客層、特に若年層やファミリー層の獲得にも力を入れている。その象徴が、アニメやゲームといったコンテンツとの大規模なコラボレーションだ。

本日11月30日には、「佐賀競馬場presents ウマ娘 プリティーダービー×ゾンビランドサガ コラボ」といった大型イベントが開催され、多くのファンを集めている。キャストによるトークショーや限定グッズの販売、コラボドリンクの提供など、競馬場をエンターテインメント施設として再定義する試みだ。

また、入場料の無料化を継続し、競馬場への敷居を下げていることも特徴的である。11月3日に開催された「さがけいば祭り」では、乗馬体験や地域グルメの提供、騎手によるチャリティー活動など、家族全員が楽しめる体験型イベントを充実させた。2025年度のスローガン「佐賀から怪物を 本気で夢見るさがけいば。」には、地方競馬の歴史を変えるような新たな価値を創造し、地域の文化・エンターテインメント拠点として進化していく強い意志が込められている。

若手騎手の登竜門と年末の祭典「中島記念」

佐賀競馬は、九州島内で唯一の地方競馬場として、優秀な競走馬と若手騎手の育成においても重要な役割を果たしている。特に、近年はJRAへのステップアップを目指す若手騎手の登竜門として注目度が高い。

中でも、デビュー後歴代最速で100勝を達成し、2023年には21歳で佐賀のリーディング騎手に輝いた飛田愛斗騎手は、全国的なホープとして知られる。金山昇馬騎手や加茂飛翔騎手らも、中央競馬への挑戦を視野に入れ、佐賀の地で研鑽を積んでいる。若手が全国のジョッキーと競い合うヤングジョッキーズシリーズ（YJS）への積極的な参加も、彼らの成長を後押ししている。

そして年末、佐賀競馬場を彩る大一番が、地方交流重賞の「第41回中島記念」（12月28日開催、ダート1,800m）である。本年の中島記念は、創設以来の歴史と伝統に加え、ファンとの一体感を高めるため、ファン投票による出走馬選定方式を採用している。投票は今月30日をもって締め切られ、ファンに選ばれた精鋭たちが師走の舞台で激突する。

佐賀競馬の成功は、ネット投票という技術革新を最大限に生かしつつ、地域連携とエンターテインメント化を両立させた多角的な経営戦略の賜物だ。地方競馬の可能性を広げるフロンティアとして、その動向は今後も競馬界全体のモデルケースとして注目され続けるだろう。