大阪万博の光と影:2,900万人達成の裏で露呈したチケットシステムの複雑性とUX設計の教訓
ニュース要約: 2025年大阪万博は約2,900万人を動員し、経済効果3兆円を達成。しかし、その裏で「万博ID→チケット購入→日時予約」という複雑なチケットシステムが初期の販売不振を招き、約140万枚の「死にチケット」を発生させた。この経験は、デジタル化を進める大規模イベントにおいて、使いやすさ(UX)を最優先するシステム設計の重要性を浮き彫りにした。
【検証・大阪万博】「死にチケット」とシステム複雑性の功罪:2,900万人達成の裏側で浮き彫りになった次世代イベントへの教訓
2025年10月、半年の会期を終えた大阪・関西万博は、最終的に約2,900万人という目標をわずかに上回る入場者数を記録し、成功裡に閉幕した。建設、運営、来場者消費を合わせた経済波及効果は約3兆円規模、運営収支も約280億円の黒字を計上するなど、数字上は輝かしい成果を残したと言える。しかし、この輝かしい成果の裏側で、万博の「顔」とも言えるチケットシステムが、多くの課題と教訓を残したことも見逃せない。
堅調な販売実績と初期の「迷走」
万博のチケット販売枚数は約2,200万枚を超え、最終的には堅調に推移したと総括できる。この実績は、目標達成に大きく貢献したが、その道のりは決して平坦ではなかった。特に会期序盤、個人向け販売の低迷は深刻であり、販売目標との大きな乖離が指摘されていた。
この販売不振の背景として、最も強く批判されたのがチケットシステムの「複雑さ」である。
万博では、来場者がまず「万博ID」を登録し、その後チケットを購入、さらに「来場日時予約」を経る必要があった。加えて、人気パビリオンの観覧には別途「パビリオン予約」が求められるという、多段階的な手続きを強いられた。この煩雑なプロセスは、デジタル慣れしていない層やライトユーザーにとって大きな障壁となった。
参加国の担当者からも「チケットを買うプロセスが非常に複雑」との声が国際会議で問題提起されるほど、ユーザー体験(UX)は著しく低下していた。システムの提案自体は高い評価を得ていたにもかかわらず、現場レベルで求められる操作性が複雑化しすぎた結果、販売戦略が後手に回り、政治レベルでの当日券導入検討などの対応を迫られる事態となったのである。
140万枚の「死にチケット」が示すもの
販売が堅調であった一方で、約140万枚に及ぶ「死にチケット」(未使用券)が発生したことも特筆すべき点だ。これは、システムの複雑さや、一度購入したチケットの来場日時の変更の難しさ、あるいは企業・団体購入分の消化不良などが複合的に影響したと見られる。
しかし、万博閉幕後、これらの物理的なチケットは予期せぬ形で価値を高めている。万博の成功が確定したことで、「思い出の品」としての需要が急増し、未使用の限定デザインチケットなどはコレクターズアイテムとしてフリマサイトやオークションで活発に取引されている。ヤフオクでは平均落札価格が1万5千円前後に上るなど、チケットは単なる入場券としての役割を終え、万博のレガシーの一部として市場価値を持つに至った。
次世代イベントへの教訓:UX設計の重要性
大阪・関西万博は、公費負担(インフラ含む)が1.5兆円規模に上る巨大プロジェクトであり、その経済効果は約3兆円と、投資対効果のバランスが今後の評価の焦点となる。運営収支が黒字化を果たしたことは評価されるべき点だが、運営面で得られた最大の教訓は、デジタル化を推進する大規模イベントにおける「ユーザー体験設計」の重要性だろう。
システムは「致命的な障害なく乗り切った」という点で一定の評価を得たものの、「使いやすさ」が二の次にされた結果、初期の販売不振を招いた。次回、日本で国際的なイベントが開催される際には、今回の万博チケットシステムの経験を教訓とすべきである。
デジタル技術の導入は不可避だが、それは決して複雑化と同義ではない。シンプルで直感的な操作性を最優先したシステム設計、そして市場の反応に応じた柔軟な販売施策(当日券やセット販売など)の早期準備こそが、真の成功を担保する鍵となる。万博の残した「チケットの功罪」は、今後の日本のイベント運営史における貴重なケーススタディとして長く記憶されるだろう。