フィギュア「女帝」トゥクタミシェワ、28歳で引退 3回転アクセルのパイオニア

【独自】「女帝」トゥクタミシェワ、28歳で現役引退　3回転アクセルのパイオニアが競技人生に終止符

【モスクワ共同】 女子フィギュアスケート界で長きにわたり異彩を放ち続けた元世界女王、エリザベータ・トゥクタミシェワ（ロシア）が、28歳で競技生活に終止符を打った。2025年11月24日、ロシアのメディアを通じて正式に現役引退を発表。数々のタイトルを獲得しながら、フィギュア界の常識を覆す「ベテラン」として最前線で戦い続けた彼女の決断は、世界中のファンに大きな衝撃を与えている。

異例の長寿キャリアに終止符

トゥクタミシェワ選手は、ロシアの著名なジャーナリストのYouTubeチャンネルに出演し、「すべてのアスリート、すべてのスケーターにとって、フィギュアスケートは人生の小さな一部だと思います」と、静かに胸中を明かした。彼女は引退を決断した理由について詳細を語っていないものの、「素晴らしいキャリアを送れた。後悔はありません」と、充実した競技人生だったことを強調している。

1996年生まれのトゥクタミシェワ選手は、4歳半でスケートを始め、9歳で名伯楽アレクセイ・ミーシン氏に見出されて以来、その指導のもとで才能を開花させた。シニアデビューとなった2011-2012年シーズンからグランプリ（GP）シリーズで連勝を飾り、日本の浅田真央選手らトップスケーターとしのぎを削る存在となった。

キャリアの頂点は、2015年シーズンだ。この年、彼女はGPファイナル、欧州選手権、そして世界選手権の主要3タイトルを全て制覇する「グランドスラム」を達成。特に世界選手権では、ロシア女子としてイリーナ・スルツカヤ以来10年ぶりとなる世界女王の座に輝き、名実ともにフィギュア界の「女帝」として君臨した。

3回転アクセルと共に挑んだ技術革新

トゥクタミシェワ選手の功績を語る上で欠かせないのが、女子フィギュアスケートにおける3回転アクセル（3A）のパイオニアとしての役割だ。

彼女は、3Aをプログラムに組み込み、成功させて世界選手権を制した数少ない選手の一人である。さらに驚異的だったのは、若年層が4回転ジャンプを武器に台頭する現代フィギュア界において、20代後半という年齢になっても、この高難度ジャンプを武器に戦い続けた点だ。

2021年の世界選手権では、6年ぶりの出場ながら、成熟した演技と確かな技術で銀メダルを獲得。この時も3Aを成功させており、その技術水準の高さとベテランとしての粘り強さは、世界中から絶賛された。ロシアのタチアナ・タラソワ氏など、名コーチたちも彼女の3A成功に感動の涙を流したと伝えられている。

彼女は、3Aだけでなく、複数の3回転連続ジャンプや、練習では4回転トウループにも挑戦するなど、常に技術革新の先導者としての役割を果たしてきた。その飽くなき探求心は、フィギュアスケートの技術レベルを押し上げる大きな原動力となった。

オリンピックに恵まれなかった異色の経歴

トゥクタミシェワ選手のキャリアは華々しい一方で、独特なパラドックスを抱えていた。彼女は24歳までにオリンピック以外の主要なタイトルを全て獲得していながら、ついに五輪出場は叶わなかった。最高のコンディションと技術を持ったシーズンが、しばしば五輪の開催年とずれ込むという「運命のいたずら」があった。

10代の中盤で引退する選手が大多数を占める女子フィギュア界において、28歳まで現役を続行した彼女は、まさに異色の存在だった。2022年のロシアのウクライナ侵攻による国際大会出場停止処分後も、国内大会やアイスショー（プルシェンコ主催など）に出演し、スケートへの情熱を保ち続けた。この不屈の精神こそが、彼女が多くのファンに愛された理由だろう。

引退発表に際し、エリザベータ・トゥクタミシェワ選手は今後、フィギュアスケート選手時代に培った経験を活かし、新たな活動を始めることを示唆している。ベテランとして積み重ねた知見と、女子フィギュアの歴史を塗り替えた偉大な功績は、ロシアだけでなく、世界のフィギュアスケート界に深く刻まれることになるだろう。彼女の新たな門出に、惜しみない拍手が送られている。