北極圏の挑戦者、ボデ/グリムトが名門ユヴェントスを苦しめる：欧州サッカー「地殻変動」の今

北極圏の挑戦者、名門を揺るがす：ボデ/グリムト 対 ユヴェントスが象徴する欧州サッカーの「地殻変動」

（2025年11月26日 日本経済新聞/共同通信社 特別寄稿）

ノルウェーの小さな港町を拠点とするFKボデ/グリムト（Bodø/Glimt）が、イタリアの伝統ある巨人ユヴェントス（Juventus）を欧州の舞台で苦しめている。2025年シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ（CL）における両者の対戦は、単なる一試合の結果以上の意味を持ち、欧州サッカー界全体で進行する「地殻変動」を鮮明に映し出している。

長らく資本力と歴史が支配してきた欧州最高峰の舞台において、新興クラブが名門を脅かす構図は、戦術の多様化と組織力の勝利を物語る。特に、キーワードにも挙がるボデ/グリムト 対 ユヴェントスの対戦は、その典型例として世界中の注目を集めている。

ホームの利とユヴェントスの不調：接戦となったCL第5節

2025年11月に行われたCLリーグフェーズ第5節、ボデ/グリムトのホームで行われたユヴェントス戦は、まさに激戦となった。試合詳細によれば、ボデ/グリムトはロイス・オペンダ選手が48分に先制点を挙げ、さらにアディショナルタイムにはジョナサン・デイビッド選手が追加点を記録するなど、攻撃的な姿勢を終始貫いた。ユヴェントスもウェストン・マッケニー選手が59分に意地を見せるなど互角の展開となったが、ホームでのボデ/グリムトの強さが際立った。

ボデ/グリムトがクラブ史上初のCLグループステージ進出で苦戦を強いられながらも、ホームゲームで強さを見せる背景には、長距離移動や北欧特有の気候といった、ユヴェントスにとってのアウェイ環境の厳しさがある。

一方、ユヴェントス側は深刻な不調が続いている。監督交代を経てもチームの安定性が回復せず、直近13試合でわずか2勝という苦しい状況が、欧州の舞台でも影響を及ぼしている。イタリア国内リーグ（セリエA）では7位と上位に食い込んでいるものの、アウェイでの成績不振や攻撃面の不安定さが目立ち、このボデ/グリムト 対 ユヴェントスの対戦においても、名門としての威厳を保つことが難しくなっている。

ジャイアントキリングを可能にする戦術的本質

ボデ/グリムトが伝統的な強豪を相手に「番狂わせ」（アップセット）を実現できる要因は、その戦術的なアプローチにある。彼らの成功の根幹は、前線からのハイインテンシティなプレッシングと、それに連動した組織的な攻撃だ。

分析によれば、ボデ/グリムトは単に個々が激しくプレスをかけるだけでなく、チーム全体が90分間を通じて持続的な高いプレッシャーを維持する。これは、体力的に優位とされるビッグクラブであっても、試合を通じてペースを保つことを困難にさせる。

特に、彼らの戦術的アプローチは、相手の隙を探る展開から、試合の流れの中で自分たちのペースを相手に強制する能力へと進化している。この組織的な硬さと、ビッグクラブを倒すことへの「野獣のような集中力」（関係者談）が融合することで、格上相手に対する恐怖心を払拭し、挑戦者としての気迫を前面に出すことが可能になっている。

戦力差の現状と欧州の競争激化

2025年11月時点での両チームの戦力を比較すると、国内リーグではボデ/グリムトが直近5試合で13得点を記録するなど高い攻撃力を見せている。しかし、CL全体では36チーム中29位と、欧州のハイレベルな環境への適応に苦慮している様子がうかがえる。守備の不安定さも課題として残る。

対するユヴェントスは、欧州での実績とビッグゲーム経験においてボデ/グリムトを圧倒する。しかし、CLでも4試合を終えてグループ内で苦戦しており（全体26位）、調子の波が大きい。戦術的成熟度や経験値ではユヴェントスが優位と見られるものの、現状の調子とホーム/アウェイの要素を考慮すると、両者の戦力差は急速に縮小している。

このボデ/グリムト 対 ユヴェントスの対戦が示すのは、現代サッカーにおいて、組織力と戦術の革新が、必ずしも巨大な資本力に劣らない力を持ち得るという事実だ。ノルウェーのクラブがイタリアの名門に食い下がる事例は、欧州サッカーの競争激化の一端であり、今後のCLの勢力図を占う上で極めて重要な指標となるだろう。伝統クラブは、新興勢力の猛追に対し、その戦術と組織の再構築を迫られている。