岐阜・愛岐道路大規模土砂崩れ、長期通行止めが示す老朽インフラの複合リスク
ニュース要約: 岐阜県多治見市の愛岐道路で大規模土砂崩れが発生し、名古屋方面への動脈が長期通行止めとなっている。専門家は、花崗岩質土壌の脆弱性、気温変化による凍結融解、老朽インフラ対策の遅れという複合的な発生原因を指摘。地域経済と住民生活への影響は深刻で、県は年内の仮復旧を目指し、道路の強靭化対策を加速させている。
岐阜・愛岐道路大規模土砂崩れ、長期通行止めが示唆する老朽インフラの複合リスク
1. 導入:重要な動脈を塞いだ大規模崩落
2025年11月30日午後、岐阜県多治見市を走る県道15号、通称愛岐道路(名古屋多治見線)で発生した大規模な土砂崩れは、地域社会に大きな衝撃を与えている。高さ約30メートルに及ぶ斜面から大量の土砂と、直径数メートルにもなる巨大な岩石が道路上に崩落し、落石防止フェンスをなぎ倒した。
この事故により、愛岐道路の多治見市市之倉町から平和町にかけての区間は全面通行止めが続いており、復旧の目処は依然として立っていない(12月1日現在)。幸いにも、崩落発生時に巻き込まれた車両や負傷者は報告されていないものの、名古屋方面と多治見を結ぶ重要な動脈が遮断されたことで、住民生活や地域経済への影響が深刻化している。
12月1日には、岐阜県多治見土木事務所が専門家を招き現地調査を実施。崩落原因の特定と、二次災害防止措置を含めた詳細な復旧計画の策定を急いでいる。この愛岐道路土砂崩れは、インフラの老朽化と気候変動リスクが複合的に作用する中で、予防的対策の遅れが招いた結果ではないかとして、大きな課題を突きつけている。
2. 専門家が指摘する複合的な発生原因
現地検証に基づく専門家の分析によると、今回の土砂崩れは単一の原因ではなく、複数の要因が重なり合った結果とみられている。
第一に、地質的な脆弱性である。崩落現場付近は、岐阜県特有の風化しやすい花崗岩質土壌で構成されており、地下水の浸透による土壌の緩みが構造的な弱点となっていた。さらに、愛岐道路開通時の「切土」(斜面の削り取り)が、長期間にわたり斜面全体の安定性を低下させていた可能性が指摘されている。
第二に、気象的要因だ。発生直前の多治見市では、降水量が少ない乾燥状態が続いていた一方、昼夜の温度差が15℃を超える日が続き、土壌内部で「凍結・融解」が繰り返されていた。この温度変化による膨張と収縮が、地盤の亀裂を拡大させ、最終的な崩落を誘発したとみられる。
第三に、人為的要因、すなわちインフラの老朽化対策の遅れである。1970年代に開通した愛岐道路は、老朽化が進行しており、2023年の点検報告で既に崩落区間が「要注意」と分類されていた。落石防止フェンスの損傷など、補修が追いついていなかった箇所が多く、これが崩落規模の拡大を加速させた一因とされる。
3. 地域経済と住民生活を直撃する通行止め
愛岐道路 通行止めの長期化は、多治見市を中心とする地域社会に深刻な影響を与えている。
主要な迂回ルートである国道19号の内津トンネルルートは、通勤・通学時間帯に慢性的な渋滞が発生しており、ドライバーの通勤時間は平均20~30分延長されている。地元住民からは「迂回路の混雑が限界に達し、生活リズムが不安定になった」との不安の声が上がっている。
経済面では、愛岐道路が名古屋港や中部国際空港と多治見を結ぶ物流の要所であったため、トラックの迂回による物流コストの上昇と納期遅延が発生。特に輸送依存度の高い陶磁器産業や、沿線の観光業は大きな打撃を受けている。
また、愛岐道路には元々、豪雨時に「連続雨量150mm超で通行止め」という独自ルールが設定されていたが、今回は乾燥期での崩落であり、気象条件だけでなく、斜面の物理的な状態に基づいた通行規制ルールの見直しが喫緊の課題となっている。
4. 年内仮復旧を目指す行政の取り組みと強靭化予算
岐阜県と多治見市は、早期の機能回復を目指し、復旧作業を急いでいる。多治見土木事務所は、専門家調査の結果に基づき、土砂・岩石の撤去に加え、二次災害を防ぐための斜面補強工事に着手する方針だ。重機3台を投入し、年内の仮復旧(片側通行の再開)を目指しているが、冬期の凍結や悪天候により作業が遅延する可能性も残されている。
同時に、長期的な強靭化対策も強化されている。多治見砂防国道事務所は、2025年度の愛岐道路周辺の斜面補強工事予算を前年比25%増の約50億円に増額。コンクリート擁壁や排水溝の強化を推進し、災害に強い道路整備を加速させている。さらに県議会では、AI監視カメラやドローンを用いたリアルタイムの斜面モニタリングシステムの導入が提言されており、予防保全への転換が図られつつある。
今回の多治見 土砂崩れは、気候変動による気温変化や乾湿の急激な変化が、老朽化したインフラの弱点を突く形で発生した。行政には、単なる復旧に留まらず、脆弱な山間部道路全般に対し、予防的な予算配分と、斜面状態を踏まえた動的な防災対策の構築が求められている。