【視点】日本陸連・有森裕子会長が示す「自分を褒める」哲学の深化とスポーツの新たな価値
ニュース要約: 日本陸連初の女性会長に就任した有森裕子氏。1996年の名言「自分で自分をほめたい」が現代の自己肯定感重視の社会で再評価される中、彼女は陸上界の改革、パラスポーツ支援、国際貢献を通じ、スポーツを社会課題解決のツールとして再定義しています。メダリストからリーダーへと進化した彼女が目指す、スポーツ界のアップデートの現在地を追います。
【視点:スポーツの価値を再定義し続ける「先駆者」の現在地】
陸連新会長・有森裕子氏が示す「自分を褒める」哲学の深化――パラスポーツ支援と国際貢献の最前線から
【2026年3月8日 東京】
日本の女子マラソン界に金字塔を打ち立てた「メダリスト」から、日本陸上界の舵取りを担う「リーダー」へ。2026年3月現在、日本陸上競技連盟(日本陸連)の会長を務める有森裕子氏(59)の活動が、かつてない広がりを見せている。1990年代、バルセロナとアトランタの両五輪で日本中に感動を与えた彼女は今、競技の枠を超え、パラスポーツ支援や国際社会への貢献を通じ、スポーツが持つ本質的な価値を問い直している。
■日本陸連初の女性会長として――「プロ宣言」の精神を糧に
2025年6月、有森氏は日本陸連の会長に就任した。かつて現役時代、アスリートの商業活動が厳しく制限されていた時代に「プロ宣言」を行い、組織と戦った彼女が、今やその組織のトップに立っている事実は極めて象徴的だ。
有森氏は就任以来、「陸上競技の存在価値を高め、その魅力を次世代に伝える」ことを最優先課題に掲げている。ワールドアスレティックス(WA)やアジア陸上競技連盟(AAA)のカウンシルメンバーとしても、国際的な発言力を強めており、日本の陸上界を世界基準へと引き上げるべく奔走する日々だ。
彼女の原動力は、今も変わらず「自立したアスリート」への想いにある。かつて自ら切り拓いたプロとしての道筋を、現代の若手選手たちがよりスムーズに歩めるよう、環境整備に注力している。
■「自分をほめたい」――30年を経て再評価されるメンタルケアの先駆性
有森裕子という名前を聞いて、多くの日本人が思い出すのは、1996年アトランタ五輪の銅メダル獲得直後に涙ながらに語った「初めて自分で自分をほめたいと思います」という言葉だろう。
この名言は、30年近い時を経た2026年現在、メンタルヘルスや自己肯定感の重要性が叫ばれる社会において、新たな文脈で再評価されている。当時の日本では、美徳とされたのは「謙遜」であり、自分を称賛することはタブーに近い風潮があった。しかし、有森氏は「他者からの評価ではなく、自分の努力のプロセスを自分自身で認めること」の重要性を、身をもって示した。
現在、この哲学はスポーツ心理学のみならず、子育てや企業のリーダーシップ研修の場でも広く引用されている。有森氏自身も、国内外の講演活動を通じて「結果が出ない時こそ、自分の存在を自分で認める言葉を持つべきだ」と発信し続けており、現代人の折れやすい心を支える指針となっている。
■パラスポーツと国際貢献、そして故郷への想い
有森氏の活動は、トラックの外でも多岐にわたる。認定NPO法人「ハート・オブ・ゴールド」の代表理事を1998年から四半世紀以上にわたって務め、カンボジアなどでのスポーツを通じた社会貢献を継続。また、スペシャルオリンピックス日本(SON)での活動や、パラスポーツ協会評議員としての役割を通じ、障がいの有無にかかわらず誰もがスポーツを楽しめる環境づくりに尽力している。
国際オリンピック委員会(IOC)の「Olympism365」委員会委員としても、スポーツを社会課題解決のツールとして活用するグローバルな戦略に関わっている。メダリストとしての知名度を、単なる過去の栄光として消費するのではなく、公共の利益へと還元する姿勢は、後進のアスリートにとってのロールモデルと言える。
一方で、故郷・岡山への愛情も忘れていない。「おかやまマラソン2026」のスペシャルアンバサダーとして、市民ランナーに寄り添い、走ることの楽しさを説く彼女の姿は、エリートランナー時代と変わらぬ情熱に満ちている。
■結びに:2026年の有森裕子が目指すもの
「走ることを手段として生きていきたい」――。
かつてそう語った有森裕子の言葉は、今や「スポーツを手段としてより良い社会を作る」という壮大なミッションへと昇華された。日本陸連会長としての重責を担いながら、パラスポーツの現場や国際会議の場を飛び回る彼女の姿は、アスリートのキャリアに限界がないことを証明している。
女子マラソン界の先駆者が今、日本のスポーツ界そのものをアップデートしようとしている。その歩みが止まることは、当分なさそうだ。
(文・ニュース担当記者)
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