吉岡秀隆が挑む『悪魔の手毬唄』の深淵―令和版金田一耕助が描く情愛と無常の集大成
ニュース要約: NHK BSプレミアム4Kで放送中の吉岡秀隆主演『悪魔の手毬唄』が話題。石坂浩二や古谷一行とは一線を画す「へなちょこ」で慈愛に満ちた金田一像を吉岡が熱演。宮沢りえや奥平大兼ら豪華キャストを迎え、岡山県鬼首村を舞台に手毬唄になぞらえた惨劇の謎に迫ります。犯人の悲哀に寄り添う吉岡版金田一の集大成となる後編放送を前に、その魅力を徹底解説。
【時流を抉る】吉岡秀隆が挑む「金田一耕助」の深淵 令和版『悪魔の手毬唄』が描く情愛と無常
2026年3月15日
昭和の土俗的な恐怖と、底知れぬ人間の業。横溝正史が遺した金田一耕助シリーズの中でも、最高傑作との呼び声高い「悪魔の手毬唄」が、俳優・吉岡秀隆の手によって新たな息吹を吹き込まれた。NHK BSプレミアム4Kにて3月14日に前編が放送され、21日の後編放送を前に、視聴者の間では早くも「吉岡版金田一」の集大成を予感させる熱狂が広がっている。
■「へなちょこ」な優しさが救う、凄惨な事件の魂
本作は、NHK版金田一シリーズの第5弾。2016年の「獄門島」から始まり、「悪魔が来りて笛を吹く」「八つ墓村」「犬神家の一族」と、日本映像史に燦然と輝く名作を塗り替えてきた本シリーズにおいて、吉岡秀隆の存在感は唯一無二だ。
かつての石坂浩二が体現した理知的で端正な金田一や、古谷一行が演じた人情味あふれる金田一とは一線を画し、吉岡が演じる探偵はどこか「へなちょこ」で、母性本能をくすぐる。しかし、ひとたび事件の核心に触れれば、犯人の孤独や悲哀に寄り添う、巫女(みこ)のような依代(よりしろ)へと変貌する。脚本を手掛けた小林靖子氏と演出の吉田照幸氏が描き出すのは、単なる謎解きミステリーではなく、閉鎖的な村社会に渦巻く血縁の呪いだ。
物語の舞台は岡山県の鬼首村(おにこうべむら)。23年前に起きた未解決の殺人事件が、村に伝わる古い手毬唄の歌詞になぞらえた連続殺人となって再燃する。吉岡演じる金田一は、ボサボサの頭を掻きむしり、フケを飛ばしながらも、迷い込んだ村の深部へと足を踏み入れていく。
■宮沢りえら豪華キャストが織りなす、因縁のタペストリー
本作の鮮烈さを際立たせているのは、吉岡を囲む豪華キャスト陣だ。物語の鍵を握る重要人物を演じる宮沢りえをはじめ、次世代を担う若手実力派の奥平大兼、出口夏希、吉田美月喜らが顔を揃える。
特に、亀の湯の長男・青池歌名雄を演じる奥平大兼や、村のスター・別所千恵子役の吉田美月喜が見せる、瑞々しくも残酷な青春の影は、「悪魔の手毬唄」が持つ悲劇性をより一層強調している。吉田美月喜は「吉岡秀隆さん演じる金田一耕助とご一緒できたことが光栄」と語っており、現場に漂っていた緊張感と信頼関係の厚さを伺わせる。
また、脇を固める笹野高史や西岡徳馬といったベテラン勢の安定感は、昭和の重厚な空気感を令和の映像技術で再現するのに不可欠な要素となっている。
■「聖地巡礼」という名の、消えゆく昭和への旅
本作の放送に伴い、再び注目を集めているのがロケ地への関心だ。1977年の市川崑監督版映画では、山梨県の昇仙峡周辺が鬼首村として描かれた。本作でもその美しくもおどろおどろしい日本の原風景への敬意は随所に感じられる。
現在、山梨県甲斐市の山間部にある「亀の湯」ゆかりの建物や、静岡県の大井川鉄道・家山駅などは、往年のファンから「聖地」として親しまれている。撮影から約半世紀が経過しながらも、今なお残る茅葺(かやぶき)の風景や古い駅舎は、横溝正史の世界観が世代を超えて愛され続けている証左と言えるだろう。
■「全部ささげた」吉岡秀隆の執念
吉岡秀隆はかつて、金田一役について「自分を全部ささげた」と語っている。謎解きシーンであまりに没入しすぎた結果、スタッフがカットをかけられずテープが切れたという逸話もあるほどだ。60歳を過ぎた吉岡が見せる白髪混じりの金田一像は、若々しさと老成した寂寥感が同居し、原作の持つ「人たらし」な魅力を完璧に体現している。
今回の「悪魔の手毬唄」でも、吉岡版特有の「優しすぎるがゆえの残酷さ」が光る。犯人が手毬唄に込めた怨念を、金田一がどのように解き解していくのか。3日後に控えた後編では、23年前の真相と、現代の連続殺人が交錯する衝撃のラストが待ち受けている。
なお、今回のBSプレミアム4Kでの先行放送を見逃した視聴者のために、11月以降にはNHK BSでの通常放送も予定されている。横溝正史生誕120周年を経て、さらなる深化を遂げた金田一耕助シリーズ。吉岡秀隆という稀代の役者が、混迷の時代に放つ「探偵」の姿を、我々は目撃することになる。
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