【銀盤の集大成】樋口新葉、不屈の3Aと「マイ・ウェイ」で挑む現役最終章・ミラノへの誓い
ニュース要約: フィギュアスケートの樋口新葉選手が、現役最終シーズンと定めた2026年ミラノ・コルティナ五輪へ挑みます。北京五輪での栄光から4年、怪我を乗り越え「マイ・ウェイ」に乗せて25歳の円熟味溢れる表現力を披露。代名詞のトリプルアクセルとベテランの誇りを胸に、自らのスケート人生を肯定するラストダンスの軌跡を追います。
【銀盤の航跡、最終章へ】樋口新葉、不屈のトリプルアクセルと「マイ・ウェイ」で挑むミラノへの誓い
2026年3月10日。イタリア・ミラノの空気が冷たく張り詰める中、フィギュアスケート女子シングル界の一つの時代が、静かに、しかし力強く幕を閉じようとしている。日本フィギュア界の至宝、樋口新葉(25=ノエビア)が、現役最終シーズンと定めた今季、その集大成となるリンクに立つ。
2022年北京五輪での団体銀メダル、そして個人戦4位。あの熱狂から4年。数々の怪我や葛藤を乗り越え、ベテランと呼ばれる域に達した彼女が選んだのは、これまでのスケーター人生をすべて肯定するような「自分自身の道」だった。
■「マイ・ウェイ」に込めた覚悟と、再構築された表現力
今シーズンのショートプログラム(SP)に、樋口は「マイ・ウェイ」を選んだ。クリス・マンが歌い上げるドラマチックな旋律は、10代から日本女子のトップを走り続けてきた彼女の歩みそのものだ。「自分のスケート人生を表現するようなプログラム。最後のシーズンの締めくくりにちょうどいい」と語るその表情には、迷いがない。
かつての樋口といえば、爆発的なスピードと力強いジャンプが代名詞だった。しかし、今季の彼女はそこに「大人の情感」という新たな武器を加えている。振付師ジェフリー・バトル氏と共に創り上げたこのSPは、ポップスとクラシカルが融合した重層的な構成だ。10代の若手選手が勢いで滑るのとは一線を画す、25歳のベテランだからこそ醸し出せる深み。一蹴りでリンクの端まで到達するスピード感は健在ながら、指先一つ、視線一つに物語を宿らせる表現力は、キャリア最高潮に達している。
一方、フリースケーティング(FS)では一転して「ワンダーウーマン」を熱演する。シェイ=リーン・ボーン氏が手がけたこのプログラムは、力強いヒーロー像と自然の壮大な美しさを融合させたものだ。後半の激しいステップは、これまで幾度となく壁にぶつかりながらも、その都度立ち上がってきた彼女の不屈の精神を象徴している。
■トリプルアクセル(3A)へのこだわりと技術の進化
樋口新葉を語る上で欠かせないのが、大技**トリプルアクセル(3A)**だ。2022年北京五輪では、女子史上5人目となる五輪での成功を成し遂げた。平昌五輪落選の悔しさを糧に習得したこの大技は、彼女のプライドそのものである。
今シーズン、若手選手たちが次々と高難度のジャンプを跳ぶ中で、樋口は「量より質」を重視した調整を続けてきた。腰や右足甲の怪我に苦しんだ時期もあったが、現在は腹筋や側筋を中心とした体幹トレーニングを徹底し、ジャンプの安定感を高めている。
「もう一度、五輪の舞台で滑りたい」。その一念で、彼女は技術構成を維持しつつ、出来栄え点(GOE)を最大化する戦略をとっている。1月の全日本選手権では、コンディションを優先しフリーを棄権するという苦渋の決断を下したが、それはすべてミラノの舞台で最高のパフォーマンスを披露するための「安全策」であった。
■ベテランとしての背中、若手へのメッセージ
現在の日本女子フィギュア界は、10代の選手が次々と台頭する「超競争社会」だ。25歳の樋口は、2025年世界選手権で6位、GPシリーズでも表彰台に上がるなど、ベテランとしての存在感を十二分に示してきた。
若さゆえの勢いに対抗するのは、これまでの経験に裏打ちされた「安定感」と「物語性」だ。樋口は、自身のSNSを通じて後輩たちの活躍を祝福するなど、チームジャパンの精神的支柱としての役割も果たしている。2026年2月、ペアの三浦璃来・木原龍一組が金メダルを獲得した際にも、真っ先に祝福のメッセージを送り、自身のモチベーションに変えていた。
■五輪代表選考の展望と、その先へ
ミラノ・コルティナ五輪への道は、決して平坦ではない。代表選考の展望は、熾烈な国内争いの中で不透明な部分も多い。しかし、樋口新葉にとって、今シーズンは結果以上に「出し切ること」に意味がある。
「五輪シーズンまでと決めた方が、全力を出し切れる」。昨夏に発したその言葉通り、彼女は一戦一戦を噛みしめるように滑っている。かつて、リンクの上で少女のような涙を流した彼女は、今、晴れやかな笑顔で最後の銀盤に向かおうとしている。
樋口新葉が描く「マイ・ウェイ」。そのラストダンスは、結果がどうあれ、日本のフィギュアスケート史に深く刻まれることになるだろう。スピード、パワー、そして円熟した芸術性。彼女がこれまで積み上げてきたすべてが、ミラノの大舞台で輝く瞬間を、日本中が見守っている。
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