SHEIN、試練の時:IPO難航、Temuとの激戦、問われるESG合規の行方
ニュース要約: グローバル快ファッション大手SHEINは、IPO難航、ライバルTemuとの低価格競争激化、欧米市場からのESG合規性要求という三重の課題に直面している。企業価値は再評価され、香港市場への上場を模索中。持続的な成長のため、サプライチェーンの透明化とプラットフォーム化を急いでいる。
グローバル快ファッションの雄「SHEIN」、試練の時:IPO難航とTemuとの激戦、問われるESG合規
導入:規制と競争の波に揉まれる巨艦
グローバル快ファッション(Fast Fashion)の市場を席巻してきた中国発のEC大手、Shein(シーイン)が、今、重大な岐路に立たされている。かつては1000億ドルとも評価された同社だが、長らく待望されてきた新規株式公開(IPO)は規制の壁に阻まれ難航し、市場ではライバルであるTemu(テム)との低価格競争が激化している。
2025年後半に向けて、Sheinは持続的な成長と上場実現のため、従来の「低価格・短サイクル」モデルからの脱却と、欧米市場が強く求めるESG(環境・社会・ガバナンス)基準への適合を迫られている。本稿では、Sheinが直面する現在の課題と、グローバルEC市場における今後の洗牌(淘汰)の動向について詳述する。
第1章:IPOの行方と香港市場への転換
SheinのIPO計画は、当初目指していたニューヨークやロンドンでの上場が、中国証券監督管理委員会(CSRC)の承認遅延や、地政学的な規制環境の複雑化により頓挫したことが主要因である。特に米国や英国では、国家安全保障やデータセキュリティの観点から、中国企業に対する審査が厳格化しており、上場への障壁が高まっている。
この状況を受け、Sheinは現在、香港市場でのIPOに方針を転換している。これは、米英市場に比べてESG基準などの規制が比較的緩やかであり、また、中国本土に親会社を設立することで中国当局の承認を得やすくする戦略調整の一環と見られる。香港市場での上場が実現すれば、2025年における最大規模のIPOとなる可能性が高いが、上場準備の遅延や市場環境の変化に伴い、かつて1000億ドルとされた企業評価額は、300億ドルから400億ドル程度に見直されているとの観測もあり、高評価額の維持に苦慮している。
第2章:Temuとの「低価格EC」市場争奪戦
Sheinが市場で直面するもう一つの大きな課題は、拼多多(ピンドゥオドゥオ)傘下のTemuとの熾烈な競争である。Sheinが「快ファッション巨頭」として柔性サプライチェーンを武器に成長したのに対し、Temuは「低価+免運費」を徹底し、2025年にはグローバル月間アクティブユーザー数が4億人を超えるまでに成長した。
両社の競争は、すでに飽和しつつある米国市場から、欧州、中東、ラテンアメリカといった「新紅利市場」へと主戦場を移している。特に欧州市場では、Temuが年間販売額で前年比60%超の成長を見せるなど猛追している。
Sheinは、単なる衣料品販売から総合ECプラットフォームへの転換を急ぎ、「爆単計画」を通じて国内のEC事業者への流量支援を強化している。一方、Temuは「全托管」「半托管」モデルで物流と在庫管理を担い、徹底的なコスト削減を図る。この「Shein対Temu」の二強対決は、単なる価格競争に留まらず、サプライチェーンの効率性、デジタル化された運営能力、そしてユーザー体験を巡る総合的な競争へと発展している。
第3章:問われるサプライチェーンの透明性とESG合規
Sheinのグローバル展開において、欧米の消費者や規制当局から最も厳しい視線が注がれているのが、そのサプライチェーンの透明性とESG合規性である。
Sheinは、中国広州を中心としたサプライヤー群に依存し、「10日以内のデザイン・生産」を可能にする超高速の「小単快反」モデルを確立している。しかし、この高速かつ低価格なビジネスモデルの裏側で、サプライヤーリストや生産地情報が不透明であるため、「情報ブラックボックス」との批判を浴びている。
特に英国議会などからは、強制労働や人権侵害、低賃金、長時間労働といった労働環境に関する疑念が提起されており、Sheinは独立した第三者機関による監査や、サプライチェーン追跡システムの導入を迫られている。また、膨大な製品の生産・輸送に伴う高い炭素排出量も、環境保護団体からの批判の的となっている。
SheinがIPOを成功させ、欧米市場での持続的な成長を確保するためには、単なる声明に留まらず、具体的なESG目標の設定と、サプライチェーンの透明化を世界基準で実現することが不可欠となる。
結論:プラットフォーム化と合規性が鍵を握る
Sheinは現在、IPOという資金調達の課題、Temuとの激しい市場競争、そして欧米市場でのESG合規という三重の難題に直面している。
同社は、従来のDTC(Direct-to-Consumer)モデルから、自社ブランドと第三者販売者を包含する「自営+プラットフォーム」の双発エンジン戦略へと移行し、市場の多様化とリスク分散を図っている。
今後の低価格EC市場の行方は、単なる価格の安さではなく、いかに迅速かつ柔軟なサプライチェーンを維持しつつ、各国・地域の厳格な規制(特に欧州)に対応できるかにかかっている。Sheinの未来は、香港市場でのIPO実現と、グローバル企業としてのESG責任を果たすことができるかどうかに集約されるだろう。