【ミラノ五輪】不屈の向川桜子と新井真季子、大けがを越え刻んだ「生きざま」と次世代へのバトン
ニュース要約: ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪のフリースタイルスキー女子スキークロスに、アルペンから転向したベテランの向川桜子と新井真季子が出場。度重なる大けがを乗り越え夢舞台に立った二人は、結果こそ1回戦敗退ながらも、その卓越した技術と精神を松浦透磨ら若手選手へと繋ぎ、日本スキークロス界の新たな夜明けを象徴する戦いを見せた。
【ミラノ発=共同】
不屈の魂が刻んだシュプール――。ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪は20日、フリースタイルスキーの女子スキークロスが行われ、アルペンから転向したベテランの向川桜子(34=富士フイルムBI秋田)と新井真季子(32=岐阜日野自動車SC)が、不屈の「生きざま」を雪上に刻んだ。結果はともに1回戦敗退となったが、度重なる大けがを乗り越え、新境地で夢舞台に立った両者の姿は、次世代を担う松浦透磨(23=岐阜日野自動車)ら若手選手たちへ、数字以上の価値を持つ「バトン」を繋いだ。
■「おなかいっぱい」向川、執念の追撃
北京五輪のアルペン代表からスキークロスへ転向し、自身2度目の五輪に挑んだ向川。決勝トーナメント1回戦では、スタートで出遅れる苦しい展開となった。しかし、アルペン仕込みの鋭いターン技術を武器に後半、猛然と先行する選手を追い上げた。結果は4着で準々決勝進出を逃したが、その表情には晴れやかな達成感が漂った。
これまでの道のりは平坦ではなかった。昨季の肩脱臼に加え、現役生活で計4度の前十字靭帯断裂。満身創痍の体を引きずりながらも、雪上に戻り続けた。「私の生きざまを見せられたと思う。もう、おなかいっぱいです」。レース後の言葉には、競技人生の幕引きを示唆させる潔さが宿っていた。
■新井、大クラッシュを越えた「宝物」
同じくアルペン出身の新井も、ドラマチックな挑戦を終えた。中学時代のオーストリア留学、FISファーイーストカップ優勝など輝かしい実績を誇りながら、彼女もまた膝の靭帯断裂を3、4回繰り返す悲運に見舞われてきた。2022年に転向し、32歳にして掴んだ初めての五輪切符。
1回戦8組に登場した新井は、激しい接触を伴う競技の洗礼を受け、大クラッシュを喫した。最下位での敗退となったが、「楽しかった。この舞台に立てたことは宝物」と笑顔を見せた。俳優としてドラマ主演を務めるなど多彩な顔を持つ彼女だが、今は「ボロボロの体を治すことに専念したい」と、まずは戦火を共にした心身を労わる。
■松浦透磨ら「次世代」へ繋ぐ技術の粋
ベテラン二人が示したのは、単なる精神論ではない。アルペンスキーの技術系(回転・大回転)で培った緻密なエッジングや、旗門を攻めるライン取りは、スキークロスの勝敗の60%を占めるとされる「ターンセクション」において、日本勢の新たな武器になることを証明した。
このDNAは、確実に若手へと受け継がれている。男子ハーフパイプ予選で13位と健闘し、独自の「炎のラン」で会場を沸かせた松浦透磨は、同じ所属先の先輩である新井らの背中を見て成長してきた一人だ。松浦は決勝進出こそ逃したものの、「2本目でスコアを伸ばせた。全力で楽しめた」と手応えを口にする。
また、女子の次世代エース、中西凜(22=京都光華SC)も1回戦敗退の悔しさを糧に「次の五輪ではメダルを」と2030年大会への決意を新たにした。
■日本スキークロス界の夜明け
かつて、アルペンからの転向は「引退への道」と揶揄されることもあった。しかし、向川と新井が体現したのは、競技の垣根を越えた「スキーヤーとしての進化」だった。
日本スキー連盟による北海道などでの強化合宿を経て、ベテランの技術と若手の身体能力が融合しつつある現在。松浦透磨のようなエンターテインメント性と実力を兼ね備えた若手が台頭し、その土台を向川や新井といった先駆者たちが築いた。
記録としては「1回戦敗退」。しかし、ミラノの荒れたコースに残された彼女たちのシュプールは、日本スキー界が新たな次元へ進むための確かな道標となった。故障に泣き、それでも雪に恋したベテランたちの挑戦は、次代のメダルへと続くプロローグに違いない。
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