【訃報】国民俳優イ・スンジェ氏が91歳で永眠 90歳での大賞受賞と60年の軌跡

国民俳優イ・スンジェ氏、91歳で永眠 韓国ドラマ60年を牽引した「生きる伝説」の軌跡

【ソウル＝共同】 韓国を代表する「国民俳優」として知られ、60年以上にわたりドラマ、映画、演劇の第一線で活躍したイ・スンジェ氏が2025年11月25日未明、老衰のため91歳で逝去した。韓国放送演技者協会は「人生のすべてを演技に捧げた」と故人の功績を称え、その訃報は韓国全土に大きな衝撃を与えている。

イ・スンジェ氏のキャリアは1962年のデビューから60年以上に及び、韓国ドラマの歴史そのものと言える。特に近年まで現役として精力的に活動を続け、2024年放送の主演ドラマ『犬の声』では、90歳という高齢ながら圧倒的な存在感と深みのある演技を披露。その集大成として同年12月にはKBS演技大賞で最高齢となる大賞を受賞し、最後まで俳優としての情熱を燃やし続けた。

90歳での大賞受賞：演技への「真摯な姿勢」

故人の最晩年の功績として特筆すべきは、90歳で主演を務めたミステリーコメディ『犬の声』での演技だ。重厚さとユーモラスさを兼ね備えた元刑事役を演じ、元警察犬ソフィとの絶妙な掛け合いが視聴者から絶賛された。2024年KBS演技大賞の受賞スピーチで、彼は「功労賞ではなく、『演技』だけで評価されるべき」と述べ、年齢ではなく作品の本質的価値を追求するイスンジェ俳優としての真摯な姿勢を示した。

彼は『イ・サン』での英祖役や、『ホジュン 宮廷医官への道』での師匠ユ・ウィテ役など、数々の時代劇で威厳ある重鎮を演じ、「国民の父」としての地位を確立した。また、1990年代のホームドラマ『銭湯の男たち』などで見せた家父長的な父親像は、当時の社会を象徴するアイコンとなった。

その一方で、2006年のシットコム『思いっきりハイキック！』では、威厳を捨てたコミカルな演技に挑戦。若い世代からは「エロ動画スンジェ」という愛称で親しまれ、世代を超えた「交流のアイコン」として、演技の幅広さと柔軟性を見せつけた。

俳優の地位向上と後進育成に尽力

イ・スンジェ氏は、単なる名優に留まらず、韓国の放送芸術界全体の発展に多大な貢献をした指導者でもあった。1971年には韓国放送演技者協会を設立し、第1・2・11代理事長として、俳優の人権向上と権益保護の基盤作りに尽力した。

さらに、1992年には第14代総選挙で国会議員に当選し、政治の舞台からも文化芸術人の地位向上を訴えた。協会は「大衆文化芸術人の権益保護の基盤を築くことに尽力された」と、政治家としての功績も高く評価している。

また、ソウル大学哲学科出身という知性も持ち合わせ、13年以上にわたり大学で教授を務めるなど、後進の育成にも情熱を注いだ。彼は「演技は演技で評価されるべき」という高い指導理念を掲げ、多忙な撮影スケジュールの合間を縫って学生たちと向き合い続けた。その教育者としての温かい人柄と指導力は、多くの教え子たちから深い信頼を得ていたという。

時代を超えて輝く芸術的遺産

イ・スンジェ氏が残した約70年間のキャリアと425作品を超える出演作は、現在、ストリーミング配信を通じて新たな世代に再評価されている。特に『商道』『ホジュン』『イ・サン』といった名作は、彼の逝去後、再視聴ランキングで上位を占めており、その演技の質の高さが時代を超えて証明されている。

韓国放送演技者協会は「先生の人生は演技の軌跡を超え、品格と温かさを備えた大人の典型であり、後輩俳優たちに演技の道と人生の真心を教えた師としての姿」こそが、彼が残した最も大きな遺産であると総括した。

出棺は2025年11月27日午前6時20分に執り行われ、京畿道利川のエデン楽園に埋葬される予定だ。イ・スンジェ氏が韓国のドラマ史に刻んだ不朽の業績と、最後まで現役を貫いたイスンジェ俳優としての情熱は、今後も韓国芸能界の模範として、次世代の俳優たちに多大な影響を与え続けるだろう。