「日立造船」から「カナデビア」へ。143年の節目に託した脱炭素への航路と苦闘
ニュース要約: 日立造船から改名した「カナデビア」の現在地を追う。143年の歴史を背負い、水素発生装置や洋上風力発電を軸に脱炭素企業への変革を急ぐ同社だが、海外プロジェクトのトラブルによる業績下方修正という厳しい現実に直面。ブランド刷新の裏側にある技術革新への挑戦と、収益性改善に向けた産みの苦しみを詳報する。
「日立造船」から「カナデビア」へ。143年の節目に託した脱炭素への航路と苦闘
2026年3月5日。かつて「東洋のバベル」とまで謳われた大阪の鉄工所を源流に持つ企業が、いま大きなうねりの中にいる。
かつての日立造船、現在のカナデビア株式会社。2024年10月1日の社名変更から約1年半が経過した。1881年にエドワード・ハズレット・ハンターが設立した「大阪鉄工所」から数えて143年。長らく親しまれた「日立」「造船」という看板を下ろし、新ブランド「カナデビア(Kanadevia)」を掲げた同社は、伝統的な重厚長大産業のイメージから「脱炭素・資源循環のリーディングカンパニー」への完全脱皮を試みている。
しかし、その道のりは決して平坦ではない。最新の業績修正と技術革新の最前線から、新生カナデビアの現在地を追った。
■「奏でる」と「道」――新社名に込められた調和の精神
キーワードである「カナデビア」は、日本語の「奏でる(協調)」と、ラテン語で「道・方法」を意味する「Via」を組み合わせた造語だ。1947年に日立グループから独立し、2002年には既に造船事業を切り離していた同社にとって、旧社名は実態との乖離(かいり)が長年の課題だった。
81年ぶりとなった今回の社名変更について、同社は「技術の力で人類と自然の調和に挑む」という強い決意を込めている。俳優の影山優佳氏を起用したCMや、ポルノグラフィティによる楽曲提供など、ブランド戦略もこれまでのBtoB企業の枠を超え、フレッシュで先進的なイメージへの転換を急いでいる。
■「水電解」と「洋上風力」:脱炭素を牽引する次世代技術
新生カナデビアが成長のエンジンとして位置づけるのが、グリーンエネルギー分野だ。特に注目を集めているのが、PEM(プロトン交換膜)型水素発生装置「HYDROSPRING®」である。
同社は山梨県都留市に、年産1GW規模を誇る水電解スタックの量産工場を建設することを決定した。2028年度末の操業開始を目指すこの計画は、投資額約80億円にのぼる一大プロジェクトだ。再生可能エネルギーの出力変動に瞬時に対応できるPEM型の強みを活かし、2026年現在も国内外で導入実績を確実に積み上げている。
また、造船時代に培った海洋技術は「洋上風力発電」の基礎構造物として結実している。国内供給力の約25%にあたる年50基の生産体制を目指し、着床式のサクションバケット基礎や、15MW級の超大型風車に対応する浮体式基礎の開発を推進。政府のグリーン成長戦略に呼応する形で、大成建設や商船三井といった有力パートナーとの提携も加速させている。
■厳しい現実に直面する業績:海外トラブルと特別損失の影響
一方で、経営の現状は順風満帆とは言い難い。2026年2月に発表された2026年3月期通期業績予想の下方修正は、市場に冷や水を浴びせた。
売上高は6,200億円と微増を見込むものの、営業利益は前期比で約50%減の135億円、純利益は77%減の50億円まで落ち込む見通しだ。主因は、環境セグメントにおける海外子会社の技術トラブルだ。プラント建設における予期せぬコスト増に加え、工作機械事業の売却に伴う減損などの特別損失が重くのしかかっている。
この発表を受け、東京株式市場ではカナデビアの株価が一時急落。投資家の間では、新社名のもとでの中期経営計画「Forward 25」の達成度に対する懸念が広がっている。受注高自体は7,200億円規模と堅調であるだけに、いかに収益性を改善し、海外プロジェクトの管理体制を再構築できるかが喫緊の課題となっている。
■伝統と革新の狭間で:創業者ハンターの精神を問う
「大阪鉄工所・日立造船として築いてきた歴史を未来へつなぐ」。同社はこの社名変更を「新たな旅の第一歩」と表現する。幕末に英国から来日し、日本文化を尊重しながら事業を興した創業者ハンターの挑戦心。そのDNAは、現在の複雑な地球規模の課題解決にどう昇華されるのか。
先進的な「カナデビア」というブランドが、単なるイメージアップに終わるのか、それとも実利を伴う真の変革となるのか。水素社会の実現に向けた100MW級の大型化案件や、ゴミ焼却発電とメタネーションを組み合わせた資源循環モデルなど、技術的な「手札」は揃いつつある。
現在の業績の停滞を「産みの苦しみ」に変えられるか。143年の歴史を持つ老舗企業が挑む、アイデンティティの再定義。その成否は、日本の製造業が脱炭素化という荒波をどう乗り越えるかという問いへの、一つの指標となるに違いない。
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