格差是正の「給付付き税額控除」2028年試行へ 財源と運用、山積する課題
ニュース要約: 長引く物価高対策として、政府は2028年前後を目途に「給付付き税額控除」の試行運用を開始する方針だ。これは所得再分配機能の強化と経済格差の是正を狙うが、巨額の財源確保や複雑な所得捕捉・事務手続きといった難題が山積しており、制度設計の成否が日本の税制と社会保障の未来を左右する。
格差是正の切り札か、運用困難の隘路か 「給付付き税額控除」28年試行へ 課題山積の制度設計
長引く物価高と社会保障負担の増大を受け、中低所得層への支援策として「給付付き税額控除」の導入議論が急速に進展している。政府・与党は、2026年の関連法案提出を経て、2028年前後を目途に制度の試行運用を開始する方針を固めた。この制度は、税制を通じて現金給付を行う「負の所得税」の考え方を応用したもので、所得再分配機能の強化と経済格差の是正の切り札として期待される一方、巨額の財源確保や複雑な事務手続きなど、乗り越えるべき課題は山積している。(共同通信社 経済政策担当記者)
税と給付を一体化、低所得層を直接支援
給付付き税額控除の最大の特徴は、所得税の控除額が納税額を上回った場合に、その差額を現金として支給(還付)する点にある。従来の所得控除や税額控除は、納税額がゼロの非課税世帯には恩恵が及ばなかったが、本制度は低所得層にも直接的な支援を可能にする。
この制度の核心的な目的は二つある。一つは、消費税が持つ逆進性を緩和し、物価高騰の影響を受けやすい低所得者層の負担を軽減すること。もう一つは、従来の社会保障給付が抱える「貧困の罠」を回避し、就労インセンティブを維持することだ。所得が増えるにつれて給付額が段階的に減る設計を採用することで、「働けば働くほど手取りが増える」仕組みを目指す。
経済学者からは、この税額控除への移行は、現在の所得控除が持つ「高所得者優遇」の側面を是正し、所得再分配機能を実効的に高める手段として高く評価されている。特に、米国で1975年から導入され、貧困削減に大きな効果を上げた**EITC(労働所得税額控除)**をモデルとして、非正規雇用者や若年勤労者の労働参加を促す効果が期待される。
与党協議が進める「段階的導入」の行方
与党内の協議は、自民、公明両党に加え、立憲民主党、日本維新の会を含む複数政党間で継続しており、制度の具体化が進められている。高市早苗首相(2025年10月就任)は、子育て世帯や勤労世帯を対象に限定し、段階的導入を図る方針を明確にしている。
現時点で有力視されているのは、まず**「社会保険料還付付き税額控除」**を第一ステップとする案だ。これは、低所得者層にとって負担の重い労働所得に係る社会保険料をターゲットに、勤労所得に応じて還付を行うことで、現行制度との整合性を保ちつつ、手取り増加を実現しようという試みである。制度の運用を円滑にするため、当初は年1回の給付(還付)から開始し、将来的に月次給付への移行も視野に入れる構想が練られている。
しかし、段階的導入を進める中で、低所得層の中でも社会保険の被扶養者や年金生活者など、労働所得を持たない層をどう支援対象に含めるか、制度の対象範囲の精緻な設定が喫緊の課題となっている。
財源確保と行政負担の難題
給付付き税額控除の高い理想とは裏腹に、その導入には巨額の財源確保と行政上の負担増大という、避けて通れない課題が横たわる。
まず、財源問題だ。本制度は減税と現金給付を同時に行うため、財源を所得税制の枠内で捻出するには、高所得者層の税率引き上げや、既存の基礎控除、配偶者控除などの所得控除の縮小・廃止が不可避となる。これらは中間層や高所得者層の実質負担増につながるため、政治的合意の形成が極めて困難であり、制度の持続可能性を巡る議論は長期化が予想される。
次に、事務手続きの複雑性だ。給付額は前年の所得に基づいて決定されるため、正確な給付を行うには、フリーランスや個人事業主を含む全ての国民の所得を精緻に把握する体制が必要となる。しかし、日本では金融所得や事業所得など、捕捉が難しい所得項目が多く、申告漏れや過少申告による誤支給・不正受給のリスクが懸念される。
給付体制の構築や所得情報と給付額の自動連携システムの整備には、多大なシステム開発費と運用費がかかり、行政の負担能力を超過する可能性も指摘されている。また、生活保護や児童手当といった既存の給付制度との整合性をどう図るかという問題も残されている。
給付付き税額控除は、日本が長年抱える経済格差、特に現役世代の貧困問題にメスを入れるための強力な手段となり得る。しかし、2028年の試行運用開始に向け、与党協議体は、財源確保の透明性を高めるとともに、所得捕捉の困難性や事務手続きの複雑性といった現実的な課題に対し、緻密なデータ検証と段階的なアプローチで臨む必要がある。制度設計の成否は、日本の社会保障と税制の未来を左右する。
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