ディエゴガルシア島の主権移譲にトランプ氏が介入、インド洋の要衝を巡る国際情勢が緊迫
ニュース要約: 英国とモーリシャスの間で合意されたチャゴス諸島の主権移譲に対し、トランプ米政権が「米国第一主義」の観点から介入を示唆しています。戦略的要衝であるディエゴガルシア島の基地運用を巡り、対中抑止戦略、元住民の帰還問題、国際法上の正当性が複雑に交錯。インド太平洋の安全保障を揺るがす国際的なパワーゲームの行方が注目されています。
【ロンドン、ワシントン時事】 インド洋の弧状列島、チャゴス諸島に位置する戦略的要衝、ディエゴガルシア島を巡る情勢が緊迫の度を増している。2024年秋に英国のスターマー政権とモーリシャス政府の間で合意された「主権移譲」という歴史的な決定に対し、米国のトランプ政権が「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」の観点から激しい介入を示唆。自由で開かれたインド太平洋の要石(かなめ)とも言われる同島の基地運用を巡り、国際政治の荒波が押し寄せている。
主権移譲合意に冷や水、トランプ氏の「介入」
事態が急変したのは2026年に入ってからだ。英国の労働党政権は2024年10月、長年不法占拠との批判を浴びてきたチャゴス諸島の主権をモーリシャスに返還することで合意した。この合意では、米軍基地が置かれるディエゴガルシア島について、英国が今後99年間にわたりモーリシャスからリース(租借)し、軍事運用を維持することが柱となっていた。英国は総額約34億ポンド(約5000億円超)という巨額のリース料を投じることで、国際法上の正当性と米軍の拠点確保を両立させる狙いだった。
しかし、2026年1月下旬、トランプ米大統領はこの合意を「完全な弱腰」「大いなる愚行」とSNSで猛烈に批判。2月初旬の英米首脳電話会談を経て、トランプ氏は一時的に軟化姿勢を見せたものの、依然として「米英共同軍事基地の完全な統制権」を要求している。米国側には、親中姿勢を強める可能性のあるモーリシャスへの主権移譲が、将来的に基地の安定運用を脅かすとの強い不信感がある。
「インド太平洋」シフトの最前線
ディエゴガルシアがこれほどまでに注目されるのは、その比類なき戦略的価値ゆえだ。インド洋の中央に位置し、4000メートル級の滑走路と原子力潜水艦も入港可能な深水港を擁する同島は、かつての湾岸戦争やアフガン・イラク戦争において、B-52爆撃機などの発進拠点として決定的な役割を果たしてきた。
近年の米軍は、中東中心の戦略から「インド太平洋」重視へと軸足を移している。2025年以降、同島にはB-2ステルス爆撃機の部隊が追加配備され、全ステルス部隊の約3分の1が集結しているとの分析もある。これは、海洋進出を強める中国の「真珠の首飾り」戦略に対する強力な抑止力として機能している。米政府関係者は「ディエゴガルシアを失うことは、インド洋における制海権と空軍力の投射能力を放棄することに等しい」と危機感を露わにする。
置き去りにされる「元住民」の悲願
地政学的なパワーゲームの裏で、深刻な人権問題も解決の出口が見えないままだ。1960年代末から70年代初頭にかけて、基地建設のために強制退去させられた約1500人のチャゴス諸島民とその子孫たちは、今なお故郷への完全な帰還を認められていない。
2019年の国際司法裁判所(ICJ)による返還勧告や国連総会決議は、英国の統治を「不法」と断定した。2024年の英モーリシャス合意では、ようやく元住民の帰還権について議論がなされる方針が示されたが、軍事機密の壁に阻まれ、ディエゴガルシア本島への再定住は依然として事実上禁止されている。住民団体は「主権が移譲されても、基地優先の論理が変わらなければ、私たちの正義は果たされない」と抗議の声を上げ続けている。
環境保護と軍事の「野合」か
また、同島周辺海域の世界最大級の海洋保護区(MPA)を巡っても議論が絶えない。英国による保護区設置は、当初「環境保護を名目にした住民帰還の阻止工作」との批判を浴びた。2025年の最新条約では、環境保護と基地運用を両立させる枠組みが再構築されたが、B-2爆撃機の頻繁な発着や大規模な兵站施設の維持が生態系に与える負荷は未知数だ。
不透明な「アメリカ・ファースト」の行方
現在、協定の完全な履行はトランプ政権の動向に完全に委ねられている。モーリシャス側からは、米国の介入を「帝国主義的な脅迫」とする反発の声も上がり始めており、進展は停滞している。
インド洋の孤島ディエゴガルシアを巡る対立は、単なる領土問題ではない。それは、冷戦期からの「基地の正当性」、現代の「対中抑止戦略」、そして植民地主義の清算という「人権」が複雑に絡み合った、21世紀の国際秩序を象徴する試金石となっている。日本にとっても、シーレーンの安全保障に直結するこの海域の動揺は、決して他人事ではない。
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