【コラム】リンク上の「心理学者」として――朱易、ミラノへの道絶たれるも氷上に留まる理由
ニュース要約: 北京五輪での挫折を乗り越え、北京大学で心理学を学ぶ朱易。ミラノ五輪への出場権は逃したものの、自己ベスト更新やメンタル面の成長を見せ、現役続行を宣言しました。帰化選手としての重圧や誹謗中傷を克服し、学業と競技の「二刀流」で新たなアスリート像を体現する彼女の再起と、中国フィギュア界での新たな役割に迫ります。
【コラム】リンク上の「心理学者」として――朱易、ミラノへの道絶たれるも氷上に留まる理由
【北京=特派員】
氷上の華やかさと、勝負世界の厳酷さ。その両端を知るフィギュアスケート女子シングルの朱易(ジュ・イー=23)が、大きな転換点を迎えている。
2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪の出場権を懸けた中国国内選抜会。12月末の全国選手権を終え、代表の座を射止めたのは若手の張瑞陽だった。北京五輪に続く2大会連続の出場を目指した朱易は、惜しくも3位。目標としていたミラノへの切符は、その手から零れ落ちた。
しかし、大会後のミックスゾーンに現れた彼女の表情に、かつての悲壮感はなかった。北京大会でバッシングの嵐に晒された少女は今、北京大学で心理学を学ぶ現役大学生として、自らの足元を静かに見つめている。
「自由滑(フリー)」という壁と成長
今回の選抜プロセスにおいて、朱易の課題は明確だった。中国杯大奖赛(中国杯)ではショートプログラム(SP)で首位に立ちながらも、自由滑(フリー)で崩れ、逆転を許した。本人も「フリーが最大の短板(弱点)であり、同時に伸び代でもある」と認める。
だが、選抜漏れの直後に行われた国際舞台、四大陸選手権(ソウル)では、その課題に一石を投じる演技を見せた。SPで58.99分と出遅れながらも、フリーで自己ベストを更新する115.01分をマーク。総得点174.00分という数字は、彼女が着実に技術の精度を上げている何よりの証左だ。冒頭のコンビネーションジャンプでミスが出たものの、その後のリカバリーは冷静そのもので、メンタル面のタフさが際立った。
「練習での成功率は以前よりずっと高い。今の目標は、練習通りの自分を試合で見せること。ただそれだけです」と、彼女は淡々と語る。
帰化選手としての重圧を超えて
朱易のキャリアは、中国スポーツ界における「試験的な挑戦」の象徴でもあった。2018年、アメリカ国籍を放棄し、中国籍を取得。中国フィギュア界初の国際級帰化選手として大きな注目を集めたが、2022年北京五輪での転倒は、SNS上での容赦ない誹謗中傷を招いた。当時のハッシュタグ「朱易摔了(朱易が転んだ)」が検閲対象となるほどの騒動は、彼女の心に深い傷を残した。
しかし、現在の彼女を支えているのは、皮肉にもその「経験」だ。心理学専攻の学生として、自らの感情を客観的に分析する術を学んだ朱易は、「多くのことを経験したからこそ、成長できた」と振り返る。かつて「アメリカへ帰れ」と叫んだネットユーザーたちの声に対しても、現在の安定したパフォーマンスと、中国代表として戦い続ける姿勢で、徐々にその評価を「一人のアスリート」としてのリスペクトへと変えつつある。
「不離開冰場」――リンクの先に描く未来
ミラノ五輪への道は途絶えた。しかし、朱易は「氷上を去るつもりはない(没有打算离开冰场)」と断言する。北京市体育局からは、次代を見据えた多額の強化費が投じられており、ナショナルチームにおける彼女の経験値は依然として高く評価されている。
現在の彼女は、学業とトレーニングの「二刀流」を心から楽しんでいるという。「試験と練習を並行するのは大変だけれど、今の私にはこのリズムが合っている」。
かつて、帰化選手として「結果」という数字だけで評価された彼女は今、自らのアイデンティティを氷上とキャンパスの両方に見出している。彼女の存在は、単なるメダル候補としての枠を超え、挫折からの再起を体現する新たなロールモデルへと進化しつつある。
ミラノという目的地を失っても、朱易のスケート人生が終わるわけではない。「今の自分をもっと知ってもらいたい。そして、最高の自分をリンクで見せ続けたい」。そう語る23歳の瞳は、次のシーズン、そしてその先にある中国フィギュア界の未来をしっかりと見据えていた。
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