アスクル、Web注文12月上旬再開へ 高度ランサムウェア攻撃からの復旧と強靭化
ニュース要約: アスクルは10月の高度なランサムウェア攻撃によるシステム障害から本格復旧フェーズに移行し、BtoB向けWeb注文を12月第1週中(12月6日まで)に再開する。ただし、WMSを用いた在庫出荷は12月中旬以降となるため、当面は配送日数が延長される見込みだ。長期化した障害を教訓に、同社は多層防御システムの構築やサプライチェーンの強靭化を最優先課題として取り組む。
アスクル、システム障害復旧へ本格移行 12月上旬にWeb注文再開 高度ランサムウェア攻撃の深層とサプライチェーン再構築の課題
【東京】 2025年10月19日に発生した大規模なランサムウェア攻撃により基幹システムが停止していたアスクル株式会社(ASKUL)は、12月に入り、サービス復旧の本格フェーズへと移行する。同社が11月28日に公表した第11報によると、法人顧客の業務継続を最優先し、BtoB向け「ASKULサービス」のWebサイト注文を**12月第1週中(12月6日までを目安)**に再開する予定だ。長期にわたるシステム障害はサプライチェーンに混乱をもたらしたが、段階的な復旧を通じ、市場シェアの回復と強靭な事業基盤の再構築を目指す。
段階的復旧の具体像 WMS再開は12月中旬以降
アスクル 復旧の道のりは、セキュリティ強化と安全性の確保を前提に、慎重に進められている。Webサイトでの注文再開は、医療機関・介護施設向けFAX注文や、ソロエルアリーナでの受注再開といったトライアル対応を経ての大きな一歩となる。再開後は、対象商品や直送品を含めて順次通常運用へ近づけられる見通しだ。
しかし、復旧の完全化にはなお時間を要する。物流の核となる倉庫管理システム(WMS)を用いた在庫商品出荷の再開は12月中旬以降を予定している。Web注文再開からWMSの本格稼働までの間は、引き続き手作業による出荷が継続される見込みで、安定稼働が確認できるまでは、通常時より配送日数がかかる状況が続く。この時間差は、顧客の利便性や競合他社とのシェア争いにおいて、短期的には依然として課題となる。
攻撃の高度性が復旧を長期化
今回のシステム障害が異例の長期化に至った主因は、ランサムウェア攻撃の高度性にある。外部からの不正アクセスにより侵入したマルウェアは、基幹システム全体を暗号化しただけでなく、バックアップデータにも同時に影響を及ぼした。これにより、通常のバックアップからの復元が困難となり、システム全体の再構築に近い作業が必要となった。
アスクルは、被害拡大を防ぐためのネットワーク遮断やシステム切り離しを即時に実施したものの、物流システム(WMS)への深刻な影響は避けられなかった。この事例は、主要なEC事業者が、高度なサイバー攻撃に対し、いかに脆弱性を抱えていたかを浮き彫りにした形だ。
市場シェアへの影響と競合の動向
アスクル 復旧の遅延は、法人向けEC市場における競争環境にも影響を及ぼしている。サービス停止期間中、競合他社は代替サービスを提供することで、顧客の囲い込みや市場シェアの拡大を図った。アスクルは、日本国内BtoB eコマースにおいて大きなシェアを持つだけに、短期間での顧客流出リスクと、それによる収益への打撃は無視できない。
また、消費者向けECサイト「LOHACO」のサービス再開が、ASKULの事業者向けサービス復旧後となる予定である点も、市場全体の需要回復に影響を与えている。同社は、12月からの本格復旧を機に、迅速なサービス安定化を図り、失われた顧客の信頼と市場シェアの回復を急ぐ経営戦略が求められる。
セキュリティ強化とサプライチェーンの強靭化
アスクルは、今回の危機を教訓とし、サプライチェーンの耐障害性向上を最重要課題と位置づけている。復旧プロセスと並行し、以下のような抜本的なセキュリティ強化策を講じる。
- 高度な防御策の導入: 外部専門機関と連携し、高度なサイバー攻撃に対応可能な多層防御システムを構築。
- システム監査とセグメント化: 物流システムを含む基幹システムのセグメント化を徹底し、システム間の相互影響を最小限に抑える構造へと転換。
- レジリエンスの強化: 定期的なバックアップ運用の強化に加え、復元訓練を義務化し、緊急時の対応能力を向上させる。
- 組織的教育: 社内のサイバーセキュリティ研修を充実させ、従業員全体のセキュリティ意識を高める。
これらの施策は、単なるシステム再稼働にとどまらず、将来的な同様の攻撃に対する防御力を高め、強靭なサプライチェーンを確立することを目的としている。
12月上旬のWeb注文再開は、アスクルが信頼回復に向けた重要な一歩を踏み出すことを意味する。しかし、WMSの完全復旧まで予断を許さない状況が続く中、同社には、事業継続性を確保しつつ、セキュリティを最優先した安全なサービス提供を継続する責務が課されている。(1,165文字)